なずな日記

2019.04.28

亭主元気で留守がいい

亭主元気で留守がいい

飲み友達のMさんとは、月に一回程度飲み会をしています。そこでとりとめのない話をするのですが、Mさんはご主人のあることに辟易しているようです。

「主人はね、たまに出張なんかで家を2、3日留守にすることがあるのよ。この時とばかり、のんびりしちゃうの。主人がいると食べられないような料理を作って、息子を呼んで一緒に食べたりね。それなのにね」

Mさんはいったん話を区切るようにビールを一口飲んでから言いました。

「一日何回も電話やメールをしてくるのよ!監視されているみたいでうんざりなの!」

Mさんのご主人はかなり押しの強い人のようで、食べ物の好き嫌いも多いのです。そしてへそを曲げたら大変なので、強く言うのもはばかられると。

 

「へえー、でもそれ、愛情表現だと勘違いしている男って、多いわよ」

私は会社勤めしているときの係長を思い出しました。

この人は結婚したら、奥さんに一日何回も電話するのに憧れていました。そうしている某部長がいたのです。いいなぁ、ああいうの…そう思っていたようです。

 

この係長がめでたく、結婚を果たしました。

結婚して間もないある日のこと。朝の仕事が一息ついた10時頃、私の前で家の奥さんに電話をしようといそいそしています。私用電話を注意するつもりはありませんが、奥さんからしてみれば鬱陶しいだけです。そう思った私はUさんに進言しました。

「Uさん、やめなよ。うるさがられるだけだよ」

Uさんは、キッとなって私をにらみつけました。

「そんなことはない!一日何回も電話すれば、そんなにも思ってくれているのか、と思うはずだ!」

Uさんは家に電話をかけました。何回かのコール音の後、奥さんが出たようです。

「えっ、別に用はないけど…」

何やら奥さんが話しているようです。

「わかった、ごめん」

Uさんはしょぼんとして電話を切りました。

「用もないのに電話なんかするなって」

「ほら、そうでしょ」

 

男は女より寂しがり屋で、家に奥さんがいないと寂しくてならないようですが、奥さんは家に一人でいると羽を伸ばせると思うようです。

やはり家の中は女性の仕事場だからでしょうか。ご主人がいれば食事やお風呂の支度など、いろいろ面倒なことをしなくてはなりません。

一人なら外食でもいいし、ご主人が嫌いで、いつもは食べられないような料理を作るのも楽しみです。お風呂もこの際スーパー銭湯にでも行こうかしら?そんなことも考えます。

 

Mさんは、首をゆっくり横に振りました。

「悪気はないらしいけど、まったく勘違いも甚だしいわよね。亭主元気で留守がいいって言うのにね」

私もMさんに向かって頷きました。

 

思い切り飲み、食べてしゃべり、楽しい時間が過ぎていきました。

「そろそろ時間だわ」

また会おうね、と挨拶してお互いの家路につきます。

そう言えばおいちゃんが帰らぬ人となった日も、おいちゃんが出かけるときに私は言ったっけ。

「今夜は、おいちゃんがいたら食べられないような、突拍子もないものを食べることにする」

「うん、そうしなさい」

おいちゃんは玄関のドアを開けて、出て行きがけに顔をこっちに向けたよね。

「明日の昼は海鮮丼を食べるから、夕飯はご飯じゃないものね」

これが、私が聞いた生きているおいちゃんの最後の言葉になるとは、夢にも思いませんでした。

 

あの時私は、「鶏のキンカン卵のすき焼き」を食べたんだよ。変な料理でしょ、おいちゃん。

晩酌しながらそれを食べて寝ていたら、一緒に旅行に行ったおいちゃんの同僚から電話があって、おいちゃんは帰らぬ人になったんだよ。

 

そっちの世界ではおいちゃんはきっと元気にしていることだろう。

 

亭主元気で留守がいい…

 

でも、おいちゃん、留守がちょっと長過ぎないかい?そう思ったけれど。

 

人間が本来いるところはあの世で、この世にはほんの束の間、修行に来るだけだと聞いたことがあります。

おいちゃんの納骨のミサに来てくださった神父様がおっしゃっていました。

「キリスト教ではあの世に旅立つことを帰天、と言います。本来いるべき天に帰るのです」

この考えは、他の宗教でも同じだそうです。

 

すると留守にしているのは、むしろ私の方なのか。

おいちゃん、私は元気にしているよ。

 

女房も元気で留守がいい、かな?。

 

 

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