納棺師が綴る『故人カルテ』

2016.11.12

故人のカルテ19 故人のケガ

故人のカルテ19 故人のケガ

おくりびとの想い~

亡くなられた方の傷を見て、辛い気持ちをよびおこすかもしれない。

わからなくしてあげたい。

 

 

ここ数年、第3次バイクブームらしいです。

80年代にバイクを楽しんでいた方々が、子供の成人後の趣味として再びバイクに乗るようになり、バイクの販売台数が伸びているそうです。

日に日に紅葉も美しくなって絶好のツーリング日和。うらやましい限りです。

 

 

しかし、どんなに安全に注意をしていても、事故に巻き込まれることもあります。

 

不幸にして交通事故によって亡くなられた場合、病院へ搬送されたとしても、医師による死亡診断が行えないため、「死亡診断書」の発行ができません。

警察による検視、検案・解剖を行い、死因を明らかにして、「死亡診断書」の代わりとなる「死体検案書」を発行する必要があります。

ご遺体が病院へ搬送されても、警察による検視や解剖があるため、傷は剥き出しのままです。

 

ご自宅に戻ってくるご遺体は、亡くなられたときのそのままの状態です。

 

特に死因究明のため解剖を経ている場合、縫い痕からの出血が止まらないことがほとんどです。

 

亡くなると、ご自身でカサブタを作って血を止めることはできません。

 

1秒でも早くご家族の元に帰らせてさしあげたいのですが、血液から感染する病気もあるため止血や殺菌、骨折などの損傷した部位へのご処置を施す必要があります。

 

警察の対応先から直接ご自宅へご搬送するとなると、辛い様子が目に入ってしまうだけでなく、感染症の2次感染リスクに加え、ご自宅を汚すことにもなり、一度保冷施設にて様々なご処置を施させていただいております。

 

 

9月半ばのことでした。

明け方、道路を渡っていたところをトラックに衝突され、病院へ搬送されたのですが、そのまま亡くなられてしまわれた方がいらっしゃいました。

 

ご家族から連絡を受けて、病院へ向かい、警察署へご搬送いたしました。

 

神奈川県の場合、葬儀社が警察への搬送対応を行います。(ごく一部市町村を除く)

亡くなられた場所から警察署へお連れして検視が終了するのを何時間も待ちます。

検視が終了すると、葬儀社の保冷施設へお連れし、検案・解剖の予定がたつのを待ちます。

警察から連絡を受けて、監察医務業を行う病院へお連れし、検案・解剖に立ち会います。

「死体検案書」の発行を待って、やっと警察の手を離れられます。

 

東京都内であれば、全て警察の仕事です。

今回のケースは東京都内での事故でした。

 

警察から司法解剖の予定が伝えられます。

事故の5日後とのことでした。

警察の手を離れるまで、ご家族は面会することもできません。

私たちも、自社のご安置施設にいらっしゃるのに、赤く染まったシーツを代えてさしあげることもできず、ただただ解剖の日を待たねばなりません。

そのうえ、「死体検案書」が発行されるまでは、正式な死亡日時がわからないため、火葬場の予約ができず、ご葬儀の目途もつけられません。

ご家族の心労ははかりしれないことと存じます。

 

司法解剖は、とても時間がかかります。

疑うべき死因が見つかったら終了というわけではありません。お身体の細部まで調べて、他殺などの要因を否定しながら亡くなった経緯を明らかにします。

 

まだ暑い9月。

体温が高い、亡くなられてすぐのころ、警察署での検視のために長時間お身体を冷やすことができず、胃腸では爆発的に細菌が増殖しています。解剖によってその細菌がいたるところに移動します。

そして、解剖に時間を費やしている間、常温に何時間もさらされてしまいます。

 

解剖を伴うと、腐敗のリスクは圧倒的に高まります。

 

解剖を終えて保冷施設に戻ってくる頃に、すでにお顔の様子に変化が出ていることも少なくありません。

ご自宅へお連れすることで更なる変化が早い段階で現れることも想定しなければなりません。

ご葬儀が日延べする場合、保冷施設で守り続けても状態が保てない状況もあります。

 

日延べと故人のお身体

⇒http://sougi-sakura.com/blog/makeup/hold-over/

 

長期安置とドライアイスの幻

⇒http://sougi-sakura.com/blog/makeup/dry-ice/

 

 

 

この方の場合、事故によって様々な箇所に骨折がみられ、出血箇所も多いため、ご葬儀当日まで保冷施設で過ごされることとなりました。

 

人工的なカサブタをつくり、縫い痕や損傷部位の止血を行いました。

お顔の傷をwaxで修復し、ファンデーションをぬって傷を消しました。

腕や足の骨折箇所には、止血後、テーピングするようにもとの形に固定して戻してさしあげました。

 

 

「たくさんお手当てしていただいたのね。ありがとうございます」

奥様は、涙を流しながら包帯からのぞく旦那様の手を握っておっしゃられました。

 

病院は、元気な方のケガの治療を行いますが、亡くなった際のケガの治療行為はできません。

亡くなられると、ご自身でケガを治そうとするお身体の働きもありません。

痛いという感情はなくなっていても、私たちがお手当てをさせていただいております。

 

 

【故人のカルテ】 亡くなられた方の傷の処置のポイント

  • 生前からの傷(医療機器の装着による傷など)、死亡直前の事故などによる傷、様々な種類がある
  • 検案・解剖を経ている場合、アルコールを使用して安全に触れられるようお身体の殺菌、搬送シーツやストレッチャーの滅菌を行う
  • ご家族も知らないところで、B型肝炎、C型肝炎、HIVなど、血液感染するウィルスを持っている場合もあるため、必ず止血処置を済ませる
  • 出血は勝手に止まらない。出血箇所を確認し、カサブタを作成する
  • 出血箇所が広範囲に至る場合、吸水シートを使用し、包帯を巻く
  • 損傷部位は綿とwaxを併用して復元する
  • 傷や変色箇所をファンデーションで隠す
  • ケロイドなど、ファンデーションがのりづらい傷もあり、完全に隠し切れない場合もある
  • 頭部の解剖により剃髪されることもあるので、ウィッグや帽子を用意してもらう
  • 警察が関与する場合、腐敗しやすい。早期の納棺と保冷施設への搬送を必要とする場合がある

 

Books

私の葬式心得

本書は、自分を「おくられ上手」に、また家族を「おくり上手」にする一冊として、これからの「理想的なお葬式」のあり方を提案していきます。
株式会社SAKURA 代表取締役 近藤卓司著「わたしの葬式心得」幻冬舎出版より発売中です。アマゾンで好評価5つ星。

ご葬儀のご相談は24時間365日

0120-81-4444